写真集『カルーセルエルドラド』について
多くの人に愛され続けてきた「としまえん」、本日閉園いたしました。
写真集『カルーセルエルドラド』は今年2月に出版されましたが、この回転木馬をテーマにしようと思ったのは4年前、許可申請に1年掛け、撮影を行ったのは2年前です。昨年は、作品のセレクト、歴史やあとがきの執筆、印刷などを行っていました。
よって僕自身、としまえん閉園に関することは全く知りませんでした。写真集の見本がそろそろ完成する1月、ニュースの報道で知ったのです。その時、飛び上がらんばかりに驚きました。
仮に知っていたとしたら、もっと写真集をたくさん刷っていたでしょう。
休園日を利用し、としまえんには何度も足を運びました。とても感動したのは、社員の皆さんが、心からとしまえんを愛していたことです。皆さん、遊園地が心から好きで入社された方々でした。だから撮影はとても協力的だった。
他の遊具同様、カルーセルエルドラドもメンテナンスが行き届いているため、100年以上の歴史があり、毎日のように動いているのにも関わらず、とても美しかったです。
カルーセルエルドラドのどの彫刻や乗物にも魂が宿っていました。撮影時、牛、豚、鷲、女神、天井画のすべてから、不思議な視線を感じ取ることができました。
今の時代、紙の写真集を300〜500部売るのはとても、とても大変なことです。というか、まず売れません。だいたいどの写真集も200部いくかいかないかで、書店在庫として大量に残り、半年〜1年後に返本され、断裁処分となるのです。
だったら電子書籍に切り替えればいいじゃないか、と多くの人に言われますが、僕は形ある「紙」の本が好きなのです。だからどんなに少部数でも作り続けていきたい。
こんな思いを理解してくれる出版社とタックを組んで、ギリギリのところで紙の写真集を出版し続けているのです。
写真集『カルーセルエルドラド』も、販売では相当苦戦するだろうと思いながらも、頑張って形にしました。
案の定、6月頃までは、ポツポツしか売れませんでした。Amazonにも30冊以上入荷したと思いますが、2週間で1冊売れるか売れないかという状況がずっと続いていたのです。
しかしここにきて、すべて売れてしまいました。出版社も、書店も、見事に在庫ゼロです。
唯一吉村事務所には6冊ありますが、これは手放しません(笑)
「重版してください!」と、出版社にも吉村事務所にも、たくさんのお問い合わせを頂いております。
仮に重版するとしたら、問題となるのは数百万の印刷代です。思い切って投資して、売れなかったとしたら……。それを考えると、なかなか思い切ることができないのです。今、どこもコロナ禍で大変ですし……。
写真集『プリンス・エドワード・アイランド』を作った時も、NHKの「花子とアン」のお陰で書店注文が殺到し、急遽2000部の重版を掛けました。しかし重版分はほとんど売れず、ほぼすべて返本されました。
これは吉村の写真集に限ったことではありません。今の時代、すべての出版物が似たような状況です。刷った分の3〜4割売れればまずまず成功、7〜8割で大成功です。
例えば雑誌。皆さんが毎月の返本・断裁数を知ったらびっくりするでしょう。
としまえんの「カルーセルエルドラド」に特別な思い入れがある人がたくさんいることに気づきました。
子どもの頃、今は亡き父と乗った回転木馬、
プロポーズを受けた場所、
好きだった人と初めてデートした場所、
会えない両親と乗ったメリーゴーランド……
カルーセルエルドラドは、解体して倉庫で保管するとのことですが、いつかどこかで再び動くことになるでしょう。でも皆さん、同じことを言います。「としまえんにあるカルーセルエルドラドでないとだめなんです!」と。
詳しくは写真集の解説ページに書きましたが、このメリーゴーランドには100年以上の歴史があります。ヨーロッパ→アメリカ→そして日本にやって来ました。僕はこの長い歴史の部分に引き込まれました。だから一つのテーマとして写真を撮ったのです。写真は今という時代の記録です。
僕は、常に先だけを見ている人間です。一つのプロジェクトが終わったら、過去を振り返らず、次のことばかりを考えている。
でもこの写真集『カルーセルエルドラド』は、どうにかしたいと思っています。
重版に関しては、もう少し考える時間をください。