自ら情報発信
お昼過ぎ、ジュンク堂書店へ。
僕が行くとき、会場の真ん中に机とアクリル板を用意してくれるんです。本へのサインが終わったら、アクリル板の下の隙間から本をお客様にお渡しできるようになっている。
今日は3時頃まで誰も来なかったので、自分で自分の写真集を見て過ごしました。10年ぶりに見る写真集も何冊かあります。そう、著者ほど、自分の本を見ていないのです。
モノクロ写真集「RESPECT(リスペクト)」、とてもいい本だと思うのですが、刷り部数の1/10も売れませんでした。
それでも、手にした人は、皆さん「よかった」と言います。Amazonのコメントも高評価ばかり。(Amazonは在庫切れとなっていますが、新品在庫はたくさんあります。そのうち入荷するでしょう)
これはどんなジャンルでも言えることですが、ただ作品を作っただけでは、誰一人として気づいてくれません。歌でも絵でも小説でも、いい作品は自然と世間に広まっていく、ということはありえないのです。ヒット商品は、必ず情報発信、つまり大々的に広告をし、多くの人に知れ渡る努力をしています。そして誰かが気づき、火がつく。
15年前に出した「あさ/朝」はベストセラーになりましたが、出版社が販促で使った金額を知ったら、皆さんびっくりするでしょう。
「カルーセルエルドラド」は、初版本は完売しました。この本、最初の情報発信は僕のブログだけでした。でも、豊島園閉園のニュースが流れ、多くの人がカルーセルエルドラドの存在を知ったのです。そして何人かは、写真集があることに気づき、買ってくれた。
ちなみに、写真集を取り上げてくれたテレビ局はどこもありませんでした。唯一、日経新聞の記者さんが、書店で見つけて購入し、書評で紹介してくれたのです。嬉しかったです。
豊島園閉園という偶然が偶然を呼び、初版本は綺麗になくなりました。そう、奇跡が起こったのです。
そこで、僕の方では、一か八かで重版をかけてみました。しかし重版分の多くは売れずにごっそり残りました。もう人々の関心は、カルーセルエルドラドにはないのかもしれません。それほど今の世の中の動きは早いし、人の心は移り気です。
どんなにいい作品であっても、今の時代、出版社にはそれを大々的に情報発信する力はありません。
だったらどうするか──。
著者が自らやるしかないのです。だから僕の場合、ブログやTwitterやYouTubeで必死になって伝えている。
何で吉村さんは、写真集や作品展の内容、撮影している様子(ハッピードリンクショップとか)を全部見せてしまうのですか? と多くの人に言われますが、僕は、自分の作品世界を情報発信しているだけなのです。それを楽しみながらやっている(笑)
どんなジャンルでも、今の若手作家は、みんなそれが出来るのです。作品発表の場が、インスタやTwitter、YouTubeになっているので、最初から世間に向け「告知」をしていることになりますね。
彼らには、出版社やテレビ局は必要ない。「まあ、マスコミなんかいつか声を掛けてくるでしょう」と余裕の構えです。
確かに、出版社の編集者も、自ら企画を立ち上げることをしなくなっています。「SNSで注目されているからAさんの作品集を出す」今はそんな企画ばかりです。
静かな会場で、「時代が変わってきたなあ〜」とぼんやりと考えていたら、ポツポツお客さんが訪れました。
アクリル作品と、作品額が2点も売れ、A1サイズのアクリルの注文も入りました。心を込めて制作します。